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少年リンチ殺人

rinchi.jpg 少年リンチ殺人
-ムカつくから、やっただけ-
講談社

定価:1,600円(税別)



書籍は絶版ですが、《増補改訂版》が新潮文庫から発売中

《編集者がつけてくれた帯のコピー》
集団暴行を受けて息子を殺された両親が、無念さを乗り越えて真相究明に立ち上がった。
「少年法」という聖域。加害者の人権ばかり強調される矛盾した現状を鋭くえぐるノンフィクション!
最愛の子どもを殺されても泣き寝入りするしかないのか?


 

目次

序章 父よ母よ息子よ
第1章 隠された現場
第2章 この世の修羅
第3章 逃走と死と
第4章 親である罪
第5章 終わりなき喪
終章 知られざるまま

■立ち読み■

 第一章 隠された現場

 仲間

 セブン‐イレブン信濃池田店のレシート記録と店員証言によれば、十代半ばと思わ
れる六人が同店にバイク三台で立ち寄りレジで精算を済ませたのは、平成六年六月二
十九日(水曜日)午後八時四十四分である。その二日前には、近隣の松本市で何者か
によって有毒ガスがまかれ七人の死者を出す奇っ怪な事件が起き、来店客のあいだで
も、この話題でもちきりだった。
 人口一万人あまりの長野県池田町は、広大肥沃(ひよく)な安曇野(あづみの)の
一角にある。かつてマラソンの中山竹通(なかやまたけみち)選手がそうであったよ
うに、荘厳な北アルプス連峰を見慣れた風景として町の子どもたちは育ってきた。
 さて、彼らが買った商品は、以下のとおりである。
 アクエリアス(一リットル)二百十三円、明治アメリカンチップス百十円、ハウス
クリッパー(照り焼き味)百四十五円を二個、明治イチゴオレ百円、カルビーピザポ
テト百三十八円、カルビーかっぱえびせん(わさび味)百十円を二個、ソフトロール
パン(チョコ味)八十八円を二個。当時まだ消費税は三パーセントだったから、合計
千二百八十四円。支払いは体格の良い一人の少年によって、チェーンつきの財布から
五千円札が抜かれ、三千七百十六円のお釣りが返された。仲間の一人がそれとは別
に、「メシがまだだから」といってヤキソバを買い、消費税を含めて二百五十七円を
自分の財布から支払った。ビールは近くの自販機で買っている。これもリーダー格少
年の「おごり」たった。
 彼らはさらに二人をおのおのの自宅に出向いて誘い、うち高校生七人は定期試験の
最中だったにもかかわらず、合計八人の十六歳が「酒宴」に集(つど)うことになる。
 少年たちの溜り場となっていた家の父親(国家公務員、四十六歳)の証言によれば
――。
 「六月二十九日には、夕方から職場の飲み会があり、私は午後八時ごろ帰宅しまし
た。そのとき、息子の住んでいる離れの前にバイクが二、三台置いてあるのを見まし
たが、別に気にも止めませんでした。息子の友達がまた遊びにきているんだなあ、と
思ったのです。
 高校二年生の息子が住んでいる離れは、自宅の東隣にあって、下が物置きで二階に
は二部屋あり、二人の子どもたちがそれぞれの部屋を使っています。息子の部屋は板
間にジュウタンが敷いてあって、八畳より少し大き目です。親子電話のコードレス子
機が息子の部屋にも置いてあり、自由に使えます。
 息子の部屋にはちょくちょく友達が遊びにきており、子どもたちの溜り場みたいに
なっているようでした。遊びにくる友達は、(池田町立)高瀬中学の同級生や(長野県
立)大町北高の仲間ですが、二十九日に来ていた八人の友達のうち七人は、今まで何
回も遊びにきていたことは私も知っています。
 その日の夜、息子たちが食べ物やビールを買い出しに行ったのも気づきませんでし
た。私のいた母屋(おもや)の部屋と息子の離れは、建物としては七メートル程度し
か距離がありませんから、バイクの音くらいは聞こえましたが。十時前後にはアルコ
ールも入っていましたので私は寝てしまい、そのあと子どもたちがバイクに分乗して
近くの(池田町立)会染(あいぞめ)小学校に出かけたのも知りません」

近隣

 会染小学校の正門からほど近い民家に住む女性(四十五歳)の証言−。
「六月二十九日の午後十時三十五分ころ、自宅の庭につくってある外風呂に入ってお
りましたら、会染小学校の校内あたりから若い男たちが何人もで喧嘩をしているよう
な怒鳴り声が聞こえました。
 夕食のあとかたづけをしてから、さあて、お風呂にでも入って休もうかなと思い、
まず二階に上がって寝室の柱時計を見たところ、ちょうど十時三十分をさしていたの
を覚えています。それから私は五分くらいしてから外風呂に参りました。服を脱いで
湯につかって間もなく、サッシ越しに、たぶん五十メートルくらい離れた小学校の通
用門あたりからだと思いますが、なにやら怒鳴り声が聞こえてきたのです。
 普段この時間帯には、うちの前を走っている県道の車の音も途切れ静かな状態です
し、農道を走る車なんてめったにありません。風呂場の周りも田んぼですからシーン
と静まりかえっていましたので、よく聞こえたんだと思います。
 怒鳴り声は若い男たちの感じでした。声の雰囲気から、二十歳より若い男の声であ
ると思えたのです。でも、そのあとすぐに怒鳴り声は聞こえなくなって、あっという
間に喧嘩もおさまったかな、と思いましたら、もう一回、怒鳴り声を耳にしたので
す。今度の怒鳴り声も若い男ではあるけれど、最初に聞こえたときより、なんでか遠
くから聞こえて、今度は遠くのほうで騒いでいるなあという感じでした。一回目も二
回目も、言葉の中身までは聞きとれませんでした。
 私がお風呂から上がったのは午後十一時十分ころです。二回目の怒鳴り声を聞いた
あとは、何も聞こえてはおりません。ですから、怒鳴り声を風呂場で聞いたのは、十
時三十五分から四十五分のあいだだった、と思います。
 風呂場を出て母屋に戻り、それから三十分くらいしてから救急車のサイレンの音が
して、ピタリと近所で停止しました。そりゃあもう、びっくりしましたですよ。これ
は何事かと思い、二階の窓をあけて眺めてみると、会染小学校の通用門を救急車がバ
ックして入り、赤い回転ランプが点滅しておりました」


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