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方向音痴の研究

houkou.jpg 方向音痴の研究
知の旅シリーズ第三弾
WAC

定価:857円(税別)

国民的問題の解決へ! (笑)

本書は全国の書店またはamazonなどのネット書店でお求めください





目 次

まえがき
第1話 全盲の社会学者が行く  石川准×日垣隆
 道に迷わない理由
 地図は身体で覚える
 頭を使って歩く
 移動の必要性
 奇数号車の後ろにトイレがある
 都会の道路はサッカー場と同じ
 暗闇でも頭の中では「明るい」
 高校生にして失明
 東大合格者第一号
 基礎資料を読みこむ苦労
 印刷物をパソコンで音声化
 視覚障害者用のソフトを開発
 締め切りが近づくと現実逃避!
 杖の代用品はストックか傘か
 タッチパネルの功罪
 テクノロジーは諸刃の剣
 音声だけでアニメを楽しむ
 触れる彫刻、触れない彫刻
 点字電子手帳でメモ
〝都会の親切〟と〝田舎の親切〟


第2話 動物の脳内地図  青木清×日垣隆
 ダンスで連絡を取るミツバチ
 ハチとイモリの不思議な生態
 メダカの学校の優等生
 魚は太陽を見つめている
 クジラの賢い狩り
 コウモリと蛾の闘い
 天動説を信じる渡り鳥
 鳥は星座を記憶する
 星座を見つめる砂漠のアリ
 鳥の産卵場所は変わらない
 ハチに背番号をつける
 勉強熱心なミツバチ
 ミツバチの落ちこぼれ
 日時計を活用した松尾芭蕉
 人間の一日は二四時間半
 体内時計を捨てた現代人
 科学の解明は夢とロマン
 目に見えないことを解明したい


第3話 カーナビ開発秘話  西脇正治×日垣隆
 カーナビで夫婦喧嘩をなくす!
 試作品の盲点
 突破口は一本の雑誌記事
 車一台より高かったGPS
 どんな天候にも左右されない
 GPS小型化への挑戦
 大容量CD・ROMの革命
 深夜二時のカーナビ狂想曲
 予期できた湾岸戦争
 パトカーの目となったGPS
 渋滞情報も一目瞭然に
 タクシーの運行を効率化
 持ち運び可能な〝動く地図〟
 地図情報を各社が共有
 仕事を楽しむ!
 星と人間の長いつきあい


第4話 デジタル地図革命  林秀美×日垣隆
 全国の地図をすべて手書き
 たった二人の地図作り
 一冊も存在しなかった参考書
 新聞作りを地図に応用
 いつ終わるとも知れぬ内職の日々
 社長の反対を押し切る
 CD・ROMの規格統一
 交差点二〇万カ所を実地調査
 夢の無人運転自動車
〝見えない地図〟の誕生
 一度使ったらやめられない
 政治家やお坊さんも注目!
 震災の仮設住宅を地図にする
 地図の歴史を塗り替える
 動く地図を世界へ輸出
 全国を歩いた伊能忠敬
 空想力を膨らませたい

 
第5話 方向音痴のメカニズム  山本利和×日垣隆
 自宅の場所がわからない!
 方向音痴は病気の一種?
 一〇〇メートルってどのくらい?
 二万五〇〇〇分の一は不自然
〝空の目〟と〝地上の目〟
 ファイルと資料の整理法
 空間情報を肌で感じる
 なぜ人は道に迷うのか
 女性のほうが方向音痴?
 はじめてのおつかい
 常に背後を気にしよう
 道に迷ったら人に訊く
 病院から外に出られない!

■ 帯(おもて) ■
 
ついに登場した国民的書籍(笑)

小さな悩みと笑うべからず! 方向音痴の重症患者である著者が、自らの症状を克服すべく時間と空間の謎に切り込む。
日垣隆が知の旅に出る!③

■ 帯(裏) ■
 
なぜ、いつも迷うのでしょうね?

◎方向音痴は病気なの?
◎「今いる場所」はどう認識してる?
◎動物にも方向音痴はいるの?
◎カーナビはどうやってできた?
◎そもそも方向音痴とは?
◎方向音痴は女性に多い?
◎方向音痴は治るの?


■立ち読み■
 
まえがき


 あなたの周囲に方向音痴はいませんか。いますよね。あなたご自身も、そのお一人かもしれません。
 とりあえず、それを慢性的症状の一種とお考えください。
 方向音痴と非方向音痴とのあいだには、想像以上に深い溝があるようです。お互いが、理解できかねる――。
 非方向音痴の優秀なる人々にとって、下流に生息する方向音痴は愚かで、あるいは怠惰に見えることもあるでしょう。許してあげてください。方向音痴という人種は一 般に、「自分が今どこにいるか」よりも、道行く人の表情やらショーウィンドーの中 の値札やら遙か前方から歩いてくる犬の仕草が気になってしまうだけで、罪深いこと をしているわけではありません。周囲に頼れる人がいれば、到着までその人に依存してしまうだけなのです。
 かわいいものではありませんか。
 方向音痴にとって恐怖なのは「初めての場所で迷うこと」ではありません。何より 恐れているのは「いつもの場所で迷うこと」です。
 本書は、方向音痴の人々に福音の山をもたらすと同時に、非方向音痴の人々に科学的な理解と共感を得るために企画されました。
 全盲の社会学者はどのように「今いる場所」を捉えておられるのか。我々の祖先で ある動物たちは「めざす場所」をどう認知しているのだろう。方向感覚や地理に自信 がある人でも、いかなる場所に一発で行けるわけではありますまい。現在ではプロド ライバーですら手放せなくなりつつあるカーナビは、どのように発明されたのか。そ して方向音痴のメカニズムはどうなっており、そもそもそれは「治療」可能なのか。
 こうした方向音痴の諸問題に、重症患者自身が挑みました。

日垣 隆



第1話 全盲の社会学者が行く

道に迷わない理由

日垣隆 いきなりこんな質問をして恐縮なのですが、石川さんは私の顔をどんなふうにイメージされていたのでしょうか。
石川准 私は全盲なのですけれども、人の声を聞いて自分の中で勝手にイメージを作り上げています。日垣さんにこれまで何度かお会いして声を聞いてきたイメージでは、きっと細い顔立ちをされているに違いないと思います。
有村美香アナウンサー(アシスタント・インタビュアー) すごい(笑)。
石川 二一世紀型の顔(笑)。
日垣 はい?(笑)
有村アナ 私の顔はどんなふうにイメージされますか。
石川 すごい美人に違いないと思っているのですが、すみません、具体的なイメージはちょっと(笑)。
日垣 石川さんの中では、人の顔は空白なのではなくて何かのイメージが浮かんでいるのですね。ズングリムックリした人の声は野太い傾向にあるとか、声の反響によって身体の大きさや骨格の予想はつくものなのかもしれません。
石川 声を聞いた人がどんな体型でどんな顔立ちなのか、私はいつも勝手にイメージを抱いています。そのイメージが正しいか正しくないのかは別として、とりあえず何かイメージがなければその人とつきあいづらくなってしまう。とりあえず「Aさんは太っている」「Bさんはやせ型だ」とイメージしてしまったほうが、私の中でコミュ ニケーションが円滑に進むのです。街中を歩いているときも、視覚以外の情報から頭 の中で勝手に風景を映像化しています。
日垣 イメージと実際の外見とは、一致するのでしょうか。
石川 たいてい、一致していないようですよ(笑)。
有村アナ 石川さんにはお子さんが二人いらっしゃるそうです。遊園地など込み入った場所にお子さんを遊びに連れて行かれるときには、ご苦労が多いのではないでしょうか。
石川 子どもを「連れて」なのか、私が「連れられて」なのか微妙なところです。ディズニーランドのような場所では、アトラクションを楽しむために行列を作らなけ ればいけませんし、そもそも世の中のお父さんが普通にやっているようなことで活躍 できないのが大変ですね。先にお父さんだけが並んでいて、自分の順番が近づくと携帯電話で「もうそろそろだぞ」と奥さんや子どもを呼び出している人もいます。「ず るいなあ」と思いつつも、私もたまにはそんな器用なことをやってみたい(笑)。


地図は身体で覚える

日垣 私は、東京駅のような広い駅ですと何百回通っても必ず迷ってしまいます。京葉線のように地下三~四階まで降りるような駅は完全にアウトでして、階段を二階も降りた時点で方向は完全にわかりません。先ほど、その東京駅の改札で石川さんと待ち合わせをしました。東京駅はすごく広く、同じ「八重洲口」でも何種類かありまして複雑な構造です。お会いしたあと、八重洲南口はどこだろうと私がキョロキョロ迷っていましたら、石川さんが「改札の右側をまっすぐ行ってください」と言う。そのとおりに進んでみましたら、八重洲南口に見事すんなり出ることができました。石川さんの頭の中では、東京駅について明確な地図ができているのですね。
石川 ただ、それは自分が使う場所だけを示したもので、しかもかなり勝手な地図だとは思います。東西南北の認識は不正確ですし、自分にとって関係のない場所は空白のまま放って簡略化しているんですよ。
有村アナ 歩くために必要な道だけが、地図として頭の中でイメージされているということですね。
日垣 病院にしても大学にしても、建物が立体交差点のように複雑な構造になっています。石川さんは、東西南北がクルクル回ってしまうような状態にはならないのでしょうか。
石川 もちろん私も方向がわからなくなることはしょっちゅうあります。自分がよく使う駅や職場など、どうしても構造を理解しておく必要がある場所については、本気を出して一生懸命地図を覚えるのです。「ここはどうせ一回しか来ないのだから、まあいいか」というようなときには、適当でいい加減に流して歩くことにしています。
 私は鉄道マニアや交通マニアではありませんから、地図や建物の位置関係を隅々まで厳密に覚えておこうという気はありません。またそういう必要もないのです。生活していく上で必要なことは一生懸命覚える。これは視覚障害者に限らず、皆さんに共通した普通のことではないでしょうか。
日垣 石川さんが勤めている静岡県立大学に、四日間ほど通ったことがあります。石川さんに手を貸すわけではなく、いつも私が後ろからついていくありさまでした。石川さんは何の躊躇もなく早足でどんどん階段を上がられ、ドアの開け閉めもされる。トイレに行くにしても、完全に正確に建物の構造が頭の中に入っていらっしゃる印象でした。
石川 大学は毎日通っていますので、頭で覚えていると言うよりも、身体が覚えてくれていると言ったほうが正確かもしれません。例えば大きな荷物が廊下にいつも置いてあるとしたら、そのことを身体が覚えていますから、荷物がなくなってもよけて通ってしまうでしょう。もちろん何かにぶつかってしまうことはよくありますけれ ど、「少しくらい何かにぶつかってもいいや」と思っていればなんでもありません。


頭を使って歩く

日垣 石川さんは道を歩いているときに、どこが通路になっているのか、どこが壁になっているのかある程度推測されていました。どうしてそんなことまでわかるのでしょう。
石川 音響情報を解析するのです。
日垣 なるほど!
石川 音が抜けてはね返ってこない場所の近くには、壁かそれに類するものがないことがわかります。空気の抜け方について耳を澄ませていると、どこに壁や通路があるのかある程度わかるものなのです。
日垣 交差点では、信号機や横断歩道があるかないかはすぐにはわかりませんね。
石川 「赤に変わります」などと音声ガイダンスを流してくれればわかりますし、車や自転車が通っている音があればわかりやすいです。逆に言うと、車がまったく通っていない場所では交差点があるかどうかはわかりづらいですね。
日垣 石川さんは毎日、ご自宅から静岡県立大学まで移動されています。東京駅もそうですし、出勤途中の経路などよく通われる場所では道に迷うようなことはない。
石川 よく出かける場所はほとんど問題ありません。ただし、海外など初めての場所に出かける場合にはそれなりに技術がいります。
有村アナ 技術とおっしゃいますと、具体的にどういったことでしょう。
石川 視覚障害者は、足で歩くというよりは頭で歩いているのです。逆に言いますと、頭を使わなければ歩くことはできません。目が見える人と違って道を歩くための情報が非常に限られていますので、視覚を補うためにいろいろな工夫をすることが必要です。例えば電車のホームは非常に危険ですから、ホームをなるべく歩かずに済ませる方法を考えます。
有村アナ 駅でホームに転落してしまったら大ケガをしてしまいますからね。
石川 東海道新幹線の一号車は、常に南西方向にあります。一号車に乗るためには、自分は駅のホームでいったいどのあたりにいるのかをいつも確認していなければいけません。駅の南北方向に改札があるのか、東西方向にも改札があるのか。そういったことも知識としてもっていたほうが歩きやすい。頭の中に目的地までの地図を描き、その地図上で自分がどこの位置にいるのかを意識しながら歩かなければならないのです。目が見える人はたとえ方向音痴であっても、看板や標識などの情報を頼りになんとか目的地までたどり着けるでしょう。しかし私のような視覚障害者は、場当たり的に歩いていては絶対に目的地までたどり着けません。
日垣 私など一生懸命地図を見ながら歩いているのに、いつまでも目的地までたどり着けないことがよくあります。場当たり的に歩いていたら、何時間でも道に迷い続けそうです(笑)。


移動の必要性

有村アナ 石川さんが移動されるときには、常に聴覚などの感覚神経に頼っていらっしゃることがよくわかりました。街なかのうるさいところや、電車のように揺れる場所では、自分の感覚神経に頼れないと思います。そういう場合はどのように対処するのですか。
石川 晴れた日と雨の日を比べると、雨の日は物にぶつかりやすいです。それから重い荷物をもっているときには、自分の思っている方向へまっすぐ歩けないことがあります。すごく雑音が大きくて、細かい音がかき消されてしまうような場所では歩行は難しい。そんな場所では、かなり慎重に歩くようにしています。
日垣 自分が思い描いている道路のイメージと現実が食い違ってしまった場合や、まわりの音が聞き取れなくなった場合に、パニックを起こしたりしないものでしょうか。
石川 交差点の真ん中など危険な場所でワケがわからなくなってしまったときには、とりあえず立ち止まってそばにいる人に援助を求めます。ただし、騒音がうるさいような場所では、実際にはあまり事故は起きないものです。むしろ一番事故が起きやすいのは、自分が「安全である」と思いこんでいるような、いつも慣れている場所でしょう。ちょっとした気持ちの空白ができたときに、電車のホームから落ちてしまっ たりする。視覚障害者はだいたいみんな一回や二回はホームから転落しているのではないでしょうか。私も一〇年に一回くらいは、ホームから落ちてケガをします。です からホームの上は、やはり怖いですね。
有村アナ 目が見える私からすると、まったく見えなければ怖くて外にはなかなか出られないでしょう。危険が至近距離に近づくまで気づけないわけですし、手を出して障害物があるかどうか確かめることも怖いと思います。
石川 私も完全に目が見えなくなってから、最初のころは外に出るのが怖かったですよ。車椅子に乗ってみたり、松葉杖をついたことがある人はいると思います。しかし、アイマスクをつけて外を歩いてみたことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。
有村アナ たしかに、暗い部屋で手探りしながら電灯のスイッチを探すことはあるにしても、まったく目が見えない状態で電車に乗ったり買い物をしたりしたことは一度もありません。
石川 怖かったり危険だったりするにせよ、とにかく歩きたい、移動しなければならないという必要があるわけですので、視覚障害者は今の状況の中で最善と思われる方法を組み合わせて外に出かけるのです。細かいケガはちょくちょくしますし、危なくないわけでは決してありません。しかし、まったく歩けないほどどうにもならないという状況でもない、ということです。


奇数号車の後ろにトイレがある

日垣 出張であちこちに移動される機会が多いと思います。例えば新幹線のトイレに行ったときに、元の席まで戻るために何か工夫されていることはありますか。
石川 新幹線には、奇数号車の後ろに必ずトイレがあるのです。
日垣 えっ、そうなんですか(笑)。
石川 奇数号車の後ろにトイレがあることがわかっていますと、偶数号車の最前列の席に座るとか、奇数号車の後部座席に座るといった工夫ができます。それから、自分の席に音の鳴る小さな電波受信機を置いておき、電波送信機をもって歩く。席を離れて再び戻るときに、「近くに来たかな」と思ったら送信機のボタンを押す。すると、受信機が反応して音を出すので、席の位置を知ることができる。そんな工夫もできなくはありません。
有村アナ 一人で海外へいらっしゃったときに、自分が目指す目的地に着いたかどうかはどこで自覚されるのでしょうか。
石川 以前、ドイツに一人で出かけたことがあります。ドイツ語はできませんし、英語でしゃべったところでドイツ人にはあまり通じません。当然日本語をしゃべれる人などめったにいない。結局どうしたかといいますと、虫のように歩くしかありませんでした。つまり、物にぶつかると方向をとりあえず変えてみる(笑)。当然そんな歩 き方では、目的地にはなかなかたどり着けませんでした。街中の移動は結構大変ですが、飛行機での移動は楽です。空港では障害者へのサービスが手厚く、飛行機を降りてからタクシー乗り場まで職員が誘導してくれます。飛行機で移動する際は、歩くのが大変なのであまり大きな荷物はもち歩かないことにしているんです。
日垣 空港のバッケージクレーム(荷物受取所)は、基本的には使わない?
石川 一人で旅行をするときには、あまり使いません。空間や平面上に配置されたものを探すことが、私たちはすごく苦手なのです。手で触れば、触れる範囲内にあるものが何かはわかります。しかしAという地点の右には何があるか、左には何があるかと検索をしていくことはできません。
有村アナ 例えば辞書で「検索」という言葉を調べようとしたら、「検査」の次、「検事」の前......と文字列をたどっていけます。それと似たようなことが、実際の場 面では難しいということですね。
石川 そうなのです。平面上や空間上を手で触っていっても、その場所には探しているものはないということしかわからず、検索の範囲を絞り込んでいくことはできません。ですから、このあたりにあるかもしれないし、ないかもしれないという状態がいつまでも続くことになります。


都会の道路はサッカー場と同じ

有村アナ 頭の中に地図ができあがっていたとしても、何かの拍子に自分がいるところがわからなくなってしまう場合があると思います。そこから本来の道順に復帰することはできるのでしょうか。
石川 ルートから外れてさえいなければ、普段ランドマークとして用いている音やにおいに出合うと、現在の位置を再確認できます。ルートから完全に外れてしまうと難しいですね。
日垣 石川さんがいらっしゃる静岡県は首都圏に比べて人口密度が低いですので、歩いているときに人とぶつかる危険はそれほど大きくはないと思います。石川さんが東京で暮らしておられたころは、人ごみの中で頻繁に誰かとぶつかってしまったのではないでしょうか。自分が歩いている導線をジャマされたり修正されてしまうことは、かなり暴力的ですし、しんどいことだと思います。
石川 東京で道を歩いたり電車に乗ったりすることは、サッカーやラグビーのようなコンタクトスポーツだと考えれば良いかもしれません。ですから、ある程度人にぶつかるのは仕方ない(笑)。問題は、人にぶつかってからルートを補正することができるかどうかです。五〇センチくらい飛ばされたので同じだけ戻ればいいだろうと思っ ても、角度を間違えることはよくあります。
日垣 人にぶつかったせいで、方向を九〇度以上も間違えることはないのですか。
石川 いや、九〇度どころか一八〇度間違えることもよくありますよ。
日垣 そうすると、全然違う方向へ進んでしまうことになりますね。「スタジオALTA」がある新宿東口のような場所だったらわかりやすいですけれど、目印がない場所だと完全に道に迷ってしまいそうです。
石川 はっきりしたランドマークがある場所は意外と少ないですから、漠然と広い場所で方角を間違えてしまうと後からは補正しづらいです。そうなったら人に訊くしかありません。


暗闇でも頭の中では「明るい」

日垣 一度だけ石川さんのご自宅に伺ったとき、私は部屋に入ってから電灯のつけ方がわかりませんでした。夜でしたので、部屋の中は真っ暗です。石川さんにとって暗い部屋で電灯をつけないのは当たり前のことでしょうが、私にとっては眠るとき以外めったにないことです。
石川 あのときはうっかりして電灯をつけるのを忘れてしまいました(笑)。すぐに言ってくださればよかったのに。私は、夜中に仕事をするときにも電灯はつけません。つまり暗闇の中で、パソコンに向かってキーボードを一人で打っていることになります。必要ないし、暗闇に怯えることもないからです。皆さんにとっては「ちょっと不気味だな」とか(笑)、「孤独に仕事をしているな」というイメージがあるかもしれません。目が見えている人にとって明るいところと暗闇の違いは明らかでしょうけれど、私にとってはどちらもまったく変わりがないのですよ。全盲の視覚障害者は、そもそも明るいとか暗いとかいう概念からは自由なのです。
日垣 私から見ると真っ暗な部屋でも、石川さんの頭の中では「明るい」ということですか。
石川 そういうことですね。
日垣 石川さんをホテルのお部屋までご案内したときに、ソファにぶつかったりしながら部屋の中を三〇秒ほど歩かれました。おそらく部屋の状況を頭の中にインプットされていたのだと思います。インプットした部屋の情報は、頭の中にしばらく残っているものなのですか。
石川 いや、しょっちゅう忘れますよ(笑)。
日垣 ちょっと安心しました(笑)。
有村アナ 部屋の間取りを忘れてしまった場合、また確認し直すわけですね。
石川 家族と一緒に住んでいれば、自分が想定した場所にあったはずのものがないということは、しょっちゅう起こります。部屋の様子が変わってしまった場合には、その都度確かめるわけです。

〔後略。続きは本書で!〕



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