ID:

パスワード:

前の記事| |次の記事

学問のヒント

hint.jpg 学問のヒント
講談社

定価:660円(税別)

阪神大震災から2年後の1997年発行。発生直後に現地入りした阪神淡路大震災の取材、幼少時の松代群発地震の体験から、地震対策に継承を鳴らした一冊。

当サイトのみ販売中! リアル書店でもネット書店でも入手できません
冊数:

メルマガ読者の方には送料がかかりませんので、「プラチナ会員」または「メルマガ読者」などとお書き添えください
cart.gif

目次

第1章 記憶の探求
第2章 複雑さの探求
第3章 時間の探求
第4章 遺伝の探求
第5章 性愛の探求
第6章 メディアの探求
第7章 大学の探求
第8章 技法の探求
第9章 地震の探求
第10章 戦争の探求
第11章 地図の探求
第12章 観光の探求
第13章 日本人の探求
第14章 家族の探求

あとがき

 戦後民主主義の名のもとで大量に出現してしまったのは、威厳ある父とは対照的な、ただの「ものわかりのいいおやじ」や「お友達のようなパパ」たちだった。
 他方で、日本が戦後、憧れて模範としたアメリカの家族は、いま瓦解の淵に立たされている。六〇年代に日本のお茶の間でもアメリカのホームドラマが人気を博したが、当のアメリカでは「危機ゆえの家族もの」だったことが日本人には見抜けなかった。たわいもなく、ただ憧憬したのである。
 現在、アメリカでは離婚が結婚の半数を超えてしまった。三人に一人が私生児である。したがって、両親と子どもが同居する古典的家族は、五世帯に一世帯の割合でしか存在しなくなったのだ。
 家族など幻想であり、そんな幻想は早く壊したほうがいいと主張する学者も確かにいる。
 もちろんそういう人は、勝手にすればよい。現代日本の家族の大半が、家族単位で労働に携わっていた太古から封建時代までの在り方とラディカルに異なっているのは事実であろう。子どもを産むだけなら、また消費単位として存在するだけなら、個人でもできる。がしかし、子の躾けと、その躾けに伴う責務と愉悦はいったい誰が享受するのか。
 もとより子は親と対をなすのである。兄は、弟または妹なくして兄たりえない。夫婦もまた対となって初めて存在しうる。こうして家族とは「対」関係の複合体なのだ。家族を社会の基礎単位として育んでいかなければ、あとは会社と教団と組合と養老院くらいしか残らなくなる。
 社会単位として家族を恒常的に保とうと努めるのは、人間だけだといっていい。母子関係は、すべての生物にある。しかし父親が子の誕生後も特定かつ恒常的な関係を結ぶのは、
 ごく一部の類人猿とヒトだけだ。子に看取られたいなどと望むのも、むろん我が人類だけなのである。
 《子を生みて子を養うは人類のみに非ず、禽獣皆然り。ただ人の父母の禽獣に異なるところは、子に衣食を与うるの外に、これを教育して人間交際の道を知らしむるの一事に在るのみ》。
 明治七年にそう書いたのは、福沢諭吉の『学問のすゝめ』である。
 

 思えば私にとって、『日本人が変わった』という本に少しばかり詳しく書いてしまったことだが、中学三年生のとき弟をある事件で亡くして以来、「家族」は今日に至るまでずっと考え抜いてきたテーマの一つである。弟の死を機に、兄が精神病棟に十数年も閉じ込められ、続いて父も母も病に倒れた。私は旧い家族から逃げ必死に新しい家族をつくり、安息の場をもった。
 一番うえの子が今春、中学三年生になった。
 このテーマでは、語りたいことが山のようにある。
 けれども、引用をやや多めにすることで、個人的な見解はできるだけ控えた。本書は読者に、あくまで、既存の学問や大学の枠組みにはおさまりきらない、私たちには大切至極と思える一四のテーマを、すゝめたかった。自分の言葉で語りだすために歴史を訪ね現在に尋ねることの醍醐味と楽しさを、伝えたかった。そうして、こんなに切実で、たぶん、
 ためにもなって、おもしろいテーマを、なぜ既成の学問体系はシカトするのか、と怒っておきたかった。
 学問もすゝめ、そう願ったゆえんである。
 福沢翁の『学問のすゝめ』は、人口三五〇〇万の明治時代にあって実に合計三四〇万冊が国中に流布したと翁みずから回顧している。いま改めて思い致したいのは、日本の先達たちはみな学問に飢えていた、という事実である−。
 本書は、『キャリアガイダンス』九五年四月号から九七年二月号までの連載に、加筆して成ったものです。リクルートが発行するこの雑誌の主な読者は高校の先生なのですが、偏差値だけの進路指導にしないためにも、最新の学問案内を誌面で提供したい、というような話が雑談のなかで出たので、私はそのような連載や本はいくつも読んだことがあるけれど、みな「つまらなかった」といいました。それはなぜかと問われたので、各分野の専門家が自分の担当する章にしか関心をもっていないからでしょう、読者は一人で読むのに、と答えました。同じ人が全分野を書けば、きっとおもしろいはずだ、という意味です。そんな読み物があれば、まず私が真っ先に読みたい、と。それは単なる雑談だったはずなのですが、数日後、私にその依頼が来てしまいました。同編集部の中津井泉さん、角田浩子さん、直接担当していただいた船津由紀さん、藤崎雅子さんに、改めて感謝いたします。
 本文も書き改めましたが、ブックガイド欄はすべて今回、相当の覚悟をもって厳選したものばかりを新しく添え、全体を再構成するにあたっては、講談社学芸図書第一出版部の上田哲之さんのお知恵に頼りました。これまで書いた本のなかで最もリラックスして書けたように思います。そしてたぶん、中学生になった娘や息子たちにも、初めて全部を読んでもらえる本になりそうな予感がします。

日 垣  隆

前の記事| |次の記事

 

ページ先頭に戻るトップページに戻る