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電子書籍版 どっからでもかかって来い!--売文生活日記

dokka.jpg どっからでもかかって来い!
売文生活日記

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PDFでお読みいただける 電子書籍版pdficon_large.gif


定価:1,000円(税別)
 

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目 次


 第1章 あんまり大人を舐めんなよ の巻
 第2章 やろうと思えばちゃんとできる の巻
 第3章 いったい何を犠牲に? の巻
 第4章 また嫌われる材料が増えて の巻
 第5章 抗議と予測について の巻
 第6章 思考停止バンクとの闘い の巻
 第7章 アフリカへの遠い道のり の巻
 第8章 人生はギャンブルか の巻
 第9章 ネット通販の日々 の巻
 第10章 台風に追われて逃げる の巻
 第11章 賃貸は未だお子ちゃま業界 の巻
 第12章 こうやって本が増えてゆくのか の巻
 第13章 いくら何でも古すぎる の巻
 第14章 親離れカウントダウン の巻
 第15章 またしても規則を食う人々 の巻
 第16章 自分の給料は毎月もらうくせに の巻
 第17章 駄文が空から降ってくる の巻
 第18章 ネット古書店こりゃ有りえねぇ の巻
 あとがき
第六章 思考停止バンクとの闘い の巻


×月×日
 私立大学三年生の長女と国立大学二年生の長男に、それぞれ二〇〇五年度前 期授業料を手渡し、振込みをさせた。たった六カ月の授業料だけで一〇〇万円 を超える。諸外国の親たちが聞いたら、さぞ驚くことだろう。日本でも簡単に つくれる金額ではない。我々の仕事で言えば、ほとんど本一冊分の初版印税に 等しい。そのような労苦に匹敵するだけの授業を毎日やっているのだろうな今 どきの大学教授は。一月から三月にかけて、長大な春休みがある。その分まけ ろ(笑)と言いたくもなる。たまたま俺の場合は印税と原稿料が毎週がんがん 入ってくるからいいようなものの(うそ)。
 授業料は手続き上、大学の事務室に直接もってゆくことができず、自動引き 落としか、こちらから振り込む方法しかない。大学側の都合でそのようにする のはやむをえないとしても、だからと言って、親が子にお金のありがたさを教 えるチャンスを奪っていいということにはなるまい。
 もちろんインターネットバンキングを使えば、多忙な折りでも大人が送金を 机上で済ませることはできる。が、昭和四三年に東芝社員四六〇〇人分のボー ナスを路上で強奪された三億円事件の〝教訓〟と称して給与を銀行振込みにし、 そうやって銀行に膨大な手数料と個人の家計情報を与え、父親の家庭での地位 を急落させただけでは満足できず、家庭の維持に必要な諸費用や学費まで自動 振替にすることで、子どもたちに「お金の動き」を見えなくさせてしまった。
 我が家では直接、学費と生活費は子どもに私から手渡す。そのために子ども は月末に必ず帰省して、「ありがとうございます」と礼を述べる。

×月×日
 みずほ銀行の池袋東口支店にわざわざ出向く。
 前日、ナイロビ(ケニア)までの往復航空券代を二人分、日本の代理店に払 い込むため、高校二年生の娘(次女)がATMで手続きした際、預金通帳を置 き忘れてきたためである。
 春休みを利用して、次女の希望でアフリカのサファリで二週間あまり過ごす だけの旅ではあるものの、費用が天から降ってくるわけではないという事実に 向き合わせるためにも、子どもの見えないところでテキパキと手続きを進める のではなく、本人に振込みをさせた。
 大学生になれば口座をみずから管理する必要も生じ、授業料についても前述 した方法で対処できるのだが、高校の授業料は自動引き落ししか選択の余地が なく、中高校生が自分で銀行とつきあう方策が奪われている。
 だから、次女にも敢えて銀行(ATM)に行かせた。それなりの金額なので、 多少の緊張はするであろう。その緊張感こそ、金銭教育には不可欠なのだ。い くら教室でお金よりも信用が大切だのスキミング被害がどうの振り込め詐欺が どうのと言っても、詮方ない。
 引出しと振込みが無事終わって小さな緊張感が解けたのか、娘はATMから 通帳を抜き取らずに出てきてしまった(らしい)。アラームが鳴るはずではあ るものの、自動記帳される行数が多かったためか、気づかなかったのだろう。 その直前、ケニアやタンザニアへの入国許可条件の一つである黄熱病の予防注 射を受けていたので、その副作用で若干ぼーとしていたせいもあるかもしれな い。

×月×日
 翌朝、私はそのATMコーナーを管理するみずほ銀行池袋東口支店に電話を かけた。確かに私の通帳は「あります」と言う。「では明日にでも」と申しあ げると、「今日中に取りに来てくれないか」と先方は言うのである。丸一日あ いだを置くと、彼らの手続きがより煩雑になるからだ。こちらのミスなので、 「わかりました」と告げてタクシーで池袋東口支店に向かった。
 ATMのある場所は私の仕事部屋から徒歩三分だが、支店は歩いて行ったの では往復一時間はかかる。海外旅行前なので、ずっと締め切りは毎日五本ほど あり、時間的ゆとりがない。
 しかし、忘れ物としての預金通帳は名義人が取りに行かなければならないの で、娘に行かせるわけにもいかず、私が出向くほかなかった。
 二階に上がってゆくと、番号札を引かなければならないのだが、そこに書か れた分類のどれにも私の要件は合致しない。制服を着た女性に、「ATMに置 き忘れてしまった預金通帳がこちらに届いていると聞いたので取りに来ました」 と告げる。女性店員は、「こちらからご連絡を差し上げたのでしょうか」と訊 くので、こいつは阿呆なのかと驚いたことを明確に示すべくおったまげた顔で まじまじ見つめるとさすがに気づいたようで、「少々お待ちください」と言っ てカウンターの中に行き、俺のほうを指差して担当者に何か言っている。客を 平気で指差しするのも、さすが天下のみずほ銀行員である。
 せっかく中まで行ったのに俺の通帳を持たずに、その女性銀行員が手ぶらで 戻ってきて、「お届け印と身分証をいただけますか」と訊いてきた。
 俺はだんだん頭にきたことをしっかり示す必要性を感じ始めていたので、 「なんで?」と問う。女性みずほ銀行員は絶句してしまった。俺は再び「どう してそんなものが必要なのでしょうか? 通帳を見てもいないのに」と訊いた。 彼女は黙って踵を返し、また落し物の担当者のコーナーに入って行く。三分後 に彼女は出てきて、「そのような決まりになっておりますので」とようやく答 え、間髪を入れず俺は「誰が決めたの?」と尋ねる。「金融監督庁です」と言 うので、それはうそだと私は申し上げる。また踵を返そうとしたので、 「ちょっと待て」と怒った声で呼び止める。三〇人くらいの客が振り向いた。 望むところである。全員にいま起きていることを聞かせたいと思う。
 私は、このような局面に至っても相手を叱責しないのは、巨額な税金をじゃ ぶじゃぶ使ってぬくぬく自己都合のみに依拠した勝手なルールを守旧し続ける 者たちに対する共犯だと考える。だから、きっちり言うのである。きっちり言 う者が何人かいれば、先方も誤りに気づく。誰も言わなければ、いつまで経っ ても何も変わらない。
 担当者がようやく出てきて釈明する。予想どおりの内容だ。私はまずこう 言った。
「この人の対応は正しかったのですか?」
 担当者は、すぐ誤りに気づいて、彼女に謝罪させた。しかし、本質的問題は 以下のことにある。
 きみたちのルールでは、忘れていった通帳を名義人に返すのに、身分証と届 け印が必要だと言う。けれども、悪意ある第三者が勝手に通帳を使って多額の 預金をおろそうとしても、きみたちは身分証の提示を求めてこなかった。カー ドの不正使用で退職金三〇〇〇万円を引き出された初老の紳士に対しても、き みたちは「犯人グループとあなたがグルである可能性がある(から預金の保護 はできない)」とまで口にしたから、いま裁判にまでなっているわけだ。  そのように預金者を軽視し続けてきたきみたちだが、つい一五分前に私が電 話をかけ、通帳がこちらに届いていると確認をし、あなたが「すぐに来てほし い」とおっしゃるのでそのとおりすぐここに来たわけだが、それに対して、通 帳も示さずに「身分証を見せろ、お届け印を先に押せ」とあなたの同僚が命じ た。
 まず伺いたいのは、悪意ある第三者が「ある特定の個人の通帳を置いてきて しまった」といううそをついて電話をかけてくる可能性は、〇・〇〇〇一%で もあるときみたちは考えているのでしょうか?
「......」
 他人の通帳を悪用する意図があるのなら、通帳をATMで見つけたその場で くすねればいいわけでしょう。わざわざ銀行に届けて、あるいは届くのを確認 して、その後に身分を偽って詐取する可能性があるときみたちは考えているの か、と訊いているのです。
「......」
 では次に、一五分前に客から電話があって、こちらに通帳が届いているとい うやりとりがあり、すぐ取りに来るように言い、まさにその一五分後に悪意の 第三者が本人だと偽って通帳を取りに来る可能性があるときみたちは本気で考 えているのか?
「......」
 黙っていないで、イエスかノーで答えていただきたい。そのような可能性は ないと考えていいのではないか。
「はい、そうだと思います」
 私が難じているのは、届け印を押させたり身分証明を求めたりすること自体 ではありません。本当に通帳を悪用されている可能性がある場面で身分証明を 求めてこなかったきみたちが、なぜ、通帳を置き忘れただけの客にだけそのこ とを強いるのかと言えば、それは、返却したあとで万一本人が取りに来たとき 「本人と証明できる人がすでに取りに来た。だから当銀行には責任がない」と 言うためのアリバイづくりが必要だからでしょう。
「そのとおりです」
 私は、①ATMに通帳を子どもが置いてきてしまったことは当然こちらのミ スであること、②しかし路上ではなく、したがって警察の管轄ではないという ことは、法律上も常識的にも他人の家やオフィスに物を忘れてきたのと同様で あり、③置き忘れをした人に物を返却するのに、普通の事務所や店舗なら、万 一のために身分証の提示を求めることはあっても、印鑑を押せ、身分証のコ ピーをとらせろ、とまで言うところはない、④カードと違って通帳だけでは犯 罪には利用できず、したがって通帳の置き忘れには本人確認で充分であること、 を縷々説明した。
 なぜ、きみたちはそんなことのために不要な書類を大量に作るのかと言えば、 断じてユーザーのためではない。責任回避のためだけに、そうするのである。 しかも、その責任回避というのも、現実には起こりえない事態を想定している。 なのに、ひたすら自分たちの守旧的ルールを客に強いれば済むと考えてきたた めに、身分証のコピーをとり、印鑑を押させ、煩雑な手続きと費用を発生させ ている。
 その費用は、今では税金によって出ているという自覚をもってもらいたい!

 嗚呼、今日もまた途方も時間をこんなところで浪費してしまった。黙って印 鑑ついて免許証を複写させていれば、一分で貰って帰ってこれたのに。けれど も、私のなかに牢固としてあるのは、こいつらの税金無駄遣いの共犯にはなら ない、という素朴な感情である。
 帰宅して原稿一本、ゆっくりと昼食を挟んでインタヴュー(されるほう)二 つを穏やかにこなし、原稿一本、対談と会食、その後また長い原稿一本。

×月×日
 朝九時。みずほ銀行の池袋東口支店にまたわざわざ出向く。
 すき好んで行ったのではない。アフリカ旅行の現地手配を在ナイロビの旅行 代理店に依頼したことは前号で触れた。ロッジなどに予約金を払わねばならな いので、至急全額をドルで振り込んでもらえないか、とメールがきたため、行 かざるをえなくなったのである。
 税金を湯水のごとく使い、小口客をごみだとしか思っていない銀行は行くた び頭にくることばかり起きるので、できることなら行かずに済ませたい。  まともな東京三菱銀行に出向くと、「お口座のある銀行支店からしか振り込 めないんですよ」と、いかにも気の毒そうな顔をする。それは仕方ありません。 アフリカは危ないとか安定していないとか、余計なことはもちろん言わず、丁 寧な対応に好感がもてる。
 やむなく鬼門(みずほ銀行)に向かう。無思慮に統合したため、池袋東口方 面だけでみずほ銀行が何店も林立してしまい、何やってんだと呆れるほかない が、勝手に統廃合しておいて、銀行名が変わった支店名が変わったという連絡 も銀行側では手際よくやらなかったため、幾つかの出版社からの入金が受け付 けられなかったこともある。
 鬼門に到着。
 海外送金を扱う階にあがり、「ケニアの旅行代理店の口座に送金をしたい」 と申し出ると、「ケ、ケニアですかあ? アフリカですよね」と受付の女性が 言う。ああ、やっぱり。こいつらなら言うと思った。
「アフリカが何か?」と問えば、「アフリカは政情が安定していないので、送 金ができるかどうか」とおっしゃる。「韓国は?」と尋ねてみる。「韓国は大 丈夫です」と言う。「韓国は六一年にクーデターが起きていますが、ケニアで はクーデターは一度も成功してない」と言ってみる。通じるわけないか。この 人たちの地図にアフリカはないのだろう。なくてもいいが、「送金できないか も」は失礼な話である。
 さらに、それからが大変だった。
 話が長くなるので、簡単にまとめると、こういうことである。
 まず、海外の口座に振り込むに際して、正確を期すため自分で書いてくださ い。正確に口座名を記したペーパーを持っていったのだが、それは必要ないと 言う。本当は、正確を期したいのではない。間違って記入したらそれは銀行で はなく客のミスだ。送金手数料五五〇〇円、コルレス先支払手数料二五〇〇円。 いい商売である。
 窓口担当者は、こう説明した。
「アフリカには不安定な銀行が多いので〔実際にはケニアの銀行のほうが日本 の銀行よりよほど安定している〕、相手の口座に入金されなかった場合、こち らに返金されてしまいます」
 はい、それは理解できます。
「それでも構いません、という念書を書いていただきます」
 なぜ?
「そういう通達が出ておりますので」
 どこから?
「金融監督庁です」
 その通達とやらを見せてください。
「......」
 見・せ・て・よ。
「......」
 見・せ・ろ。
「ちょっとお待ちください」
 ここでも上司(男性)が登場する。男尊女卑の典型だ。結局のところ、送金 できなかった場合のリスクをすべて客に負わせる、というだけのことだった。
 だが、そのお金は全部俺のものなんだから、たとえ送金できなかった場合に も、銀行のリスクはゼロでしょう。
「左様ですが、返金の際に当銀行に手数料が発生いたします」
 口座がある銀行支店からしか海外送金できない規則だと言われてここに来て いるのだし、万一そのような送金不可という事態が生じたら、送金の額からか 口座からか引き落とせばいいのに。で、もし送金したものが戻ってきてしまっ たら、そのお金はどうするの?
「お客様にもう一度ご来店いただいて、また追加のサインをいただき......」
 そんな莫迦げたことが、いったいどこに書いてある?
「通達がございま......」
 そ・れ・を・見・せ・て!
「申し訳ございません。実は、そのような通達はないのです」

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