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PDF ルポ脳生――難病ALSと闘う人々

ruponoueiPDF160.jpg ルポ 脳生――難病ALSと闘う人々 (PDFファイル)

全身の筋肉が日々消失してゆく難病中の難病であるALS(筋委縮性側策硬化症)。生と死の根源を問い続けるこのALSと闘う人々と、その家族や支援者を、12年の歳月をかけて取材し、生きることの重さに迫った連作ルポ。
この作品は電子書籍でのみお読みいただけます。

定価:1,300円(税別)  →800円
特別価格実施中


 


目次

第1楽章

声は出ないがワープロを使って
「ただごとではない」そして、告知
「脳の時代」を 象徴する病
ほんの少しだけ、希望がわいてきた
ヘソクリをどうしようか
長男が書いた作文
いまのほうが妻と気持ちが通じる
父の変化、娘の変化
父の病気を 真正面から受けとめたい

第2楽章

'93年秋
稲刈り
「主婦の友」
発病
全国組織
命綱
再会
愛がほしい

第3楽章

告知
ALS
あいがも農法
確信
ボランティア
取材者
訪問
歩けば棒に
挨拶

第4楽章

同級生からの電話
宮下さんに会いたい
発行された家庭新聞
ALSの解明が始まった
意思疎通の命綱

第5楽章

「あと5年」という診断
階段が昇れない、つまずく......
電子メールで「入院します」
外出は「万一のこと」と覚悟して
妻の在宅闘病を支えて
「俺のために生きて下さい」
仕事と介護の間で
ALS事務局長からの「遺言」
「生きているだけでいい」
下アゴで打ち続けたワープロ
1日で1年分人生を哲学する
「生きる」楽しみ持ち続けたい



【立ち読み】

(第一楽章より)

「ただごとではない」そして、告知

 宮下さんが右足を引きずるようになり、体調がどうもおかしいと感じるようになったのは、'91年の夏が終わりかけたころのことだった。
 ゴルフの優勝トロフィーを二つもっている彼は、この日も誘われるままプレイに出かけたのだが、腰が回らず散々な目にあった。疲労が蓄積したのだろうか。内科で検査を受けると、なぜか順天堂大学附属病院の神経内科を紹介された。
 長野から東京へ夫婦で出かけるのは初めての体験だった。最寄りの駅に着いてから、大都会ならではの巨大な横断歩道を渡り始めたとき、夫の「亀さんみたいな重い足どり」に妻は驚く。信号が青の間には、向こう側まで渡りおえることができなかった。
 妻は、しばらく記憶の糸をたどってみるのだが、夫が普通に歩く姿を思い出せない。家に帰ってくればすぐに座って晩酌を始めていたし、歩いて3分のところでも夫は車を使っていたからだ。横断歩道を渡るその歩き方を見て、しかし、「これはただごとではない」と妻は悟る。誰か人とぶつかれば、そのまま倒れてしまいそうだった。

 翌日からすぐに夫は仕事に戻ったのだが、何でもないときに、いきなり転んでしまう。事務用の複写を書くのに力が入らない。改めて順天堂大学病院で11月初旬から、1カ月ほどかけて徹底的に検査をすることになった。検査入院のためベッドで寝ていると、背中の筋肉がピクピクと跳ねるように動く。食事のときに箸がうまく持てないようになった。
 妻と子供たちが週末にやってきて、後楽園遊園地に遊びに行き、家族4人が思い切り笑った久しぶりのひとときを送る。これが家族みな揃っての「最後の行楽」になるとは、夢にも思わない。その直後、彼は告知を受ける。

《筋いしゅくしょう何たらかんたら という 一度では とても覚えきれないような長い病名であった 
 それを聞いて私は 教授にその病気が どんな病気で どうなって行くのか聞きもしなかった そんな私は そうですかと答えただけだったので 教授もあっけにとられたようだった。
 私の この病気は たいしたことがなく きっと治ると思っているので 自分でいろいろ心配するより専門家である先生方にまかしておけばいいと考えている》

 年が明けて春になり、子供の学校の運動会に行こうとして、辿り着けず、電話をしていて、ろれつが回らず、箸に代えたフォークが重くて待ち上がらない。ついにトイレに入る
手前で力つき、大便をしそこねて、妻の帰りをひたすら待つという事態にまで至る(娘が先に帰ってきてテキパキと処理してくれた)。車イスの生活が始まり、さらに翌年('93年)4月、呼吸不全に陥り長野赤十字病院に緊急入院することになる。  病名はALS(アミオトロフィッシエ・ラテラル・スクレローゼの頭文字/筋萎縮性側索(そくさく)硬化症)。宇宙物理学者ホーキング博士はALSと現在も闘病中であり、音楽家ショスタコービッチや、毛沢東もその主治医によればALSに倒れたという。

 ALSはその原因すら、いまなお謎に包まれたままだ。脊髄(せきずい)中の運動神経をつかさどる側索が消失してしまい、ゆえに全身のありとあらゆる筋肉が徐々に消えてゆく難病中の難病である。発症過程では各所の筋肉がピクピクと跳ねるように動く症状が伴う。まったく動けなくなるまで、ホーキング博士のように20年以上かけて進行していく場合もあり、わずか2カ月ですべてが進行してしまう場合もある。発症は働きざかりの40代から60代にかけてが圧倒的だ。舌や喉にある筋肉がなくなってしまうため食物を飲み下すことができなくなり、胸の筋肉や横隔膜もやられるので呼吸が不可能となる。自力では指も動かせなくなるため、自殺すらできない状態に陥る。治療法は、まだ見つかっていない(小長谷正明『神経内科』岩波書店)。

 これほどの難病も他に例を見ないのだが、裏返せばALSとは、ただ単に運動神経のシステムが機能しなくなるだけの病気ともいいうるのだ。

 とはいえ、蚊に刺されればかゆみは感じるのに、かゆいところを自分でかくことができないばかりか、かいてくれと口に出すことができない。ちょっとした弾みで人工呼吸器の接続が悪くなったとして、その急変を何らかのサインで介護者に告げることができなければ絶命する。苦悶しながらも、苦悶の表情すらできない。外から見るかぎり、いつもとまったく変わらないのに悶絶して果てる、という恐怖と常に直面しているのである。

[後略]
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