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「少年にも死刑を」(「文藝春秋」2000年8月号)から11年半

 海外出張中に、光市母子殺害事件を起こした福田孝行被告の死刑判決が確定
との報に接した。

 月刊「文藝春秋」に「少年にも死刑を」という、敢えて目をむくようなタイ
トルで私の原稿が掲載されたのは、2000年8月号だった。努めて説得的に、け
れども自分にしか書けないドキュメントを心がけたつもりである。

 日本の新聞やテレビは、死刑確定のニュースですら加害者(元被告、現在死
刑囚)の実名報道をしなかった(のちに一部メディアを除いて一斉に実名報道
に切り替えた)。
 相変わらずの保身ぶりだが、そんなことはどうでもいい。私の主張は、「一
人前の凶悪犯罪をおかした者ならば、その年齢が20歳未満であろうが、一人前
の罰を受け償うほかない」という趣旨に尽きる。

 遺族の本村洋さんも上記被告につき実名で文章を書いたことに対して法務省
から注意勧告を受けるという厳しい情勢のなか、私は孤軍奮闘のドン・キホー
テといったおもむきで、本村さんをバックアップすべく、また日本の死刑制度
は廃止してはならない、との強い信念から「文藝春秋」の原稿を執筆した。

 アングロサクソン主導のもとで欧米諸国が「死刑制度は野蛮なこと」として
廃止に踏み切ったわけだが、実のところ現在いかに苦悩しているか(何十人を
殺しても犯人の命だけは膨大な国家予算を投じて守りきる、という方向に舵を
切ったら「苦悩」するのはわかりきったことではないか)、また、いったん制
度を廃止したあとに多くの人々が「間違っていた」と気づいても、覆水盆にか
えらずの喩(たと)えどおり、元に戻すには廃止のときの数十倍のエネルギー
を要している実態も、よく知っていた。

 死刑に関して私の思い描く日本の未来像は、「死刑制度を牢固(ろうこ)と
して残しつつ、死刑が適用されるような犯罪がなくなる方向に国民全体が決意
をしていくこと」に尽きる。

 アムネスティなどの白人による差別団体が主として、非白人の「遅れた国々」
に「死刑制度は犯罪の抑止力にはならない」という侮蔑的視座を示してきた。
それに対して私は、こう反駁(はんばく)した。

《私の殺意が消えたのは、事件後二十年ほど経った、つい最近のことだ。死刑
廃止を叫ぶ人々は、死刑が犯罪の抑止力になっていないと当然のようにいうが、
少なくとも私は死刑制度が日本になければ、彼と教師たちを殺していた。私を
思いとどまらせてくれたのは、事件のあったことすら忘れているような者たち
を殺しても、釣り合わないと思ったからにすぎない。十五歳の私は、弟の分も
生きようと、かろうじて思った。十三歳でこの世から抹消された弟に、何かし
ら良い報告が将来できるようになりたい。【後略】》

 さて、光市母子殺害事件が起きたのは1999年4月14日のことだ。

《たまたま私は当時海外に出かけていたので、迂闊(うかつ)にもその事件を
知らなかった。翌年の一月、ある会合の夕食時に、遺族である本村洋さんから
直接、ごく簡単に事件の概要を聞き、私は絶句した。必ず傍聴に行きます、と
声をかけることが精一杯だった。【中略】「いつも空席はありますよ」と本村
さんはいっていた。》

 その後のマスコミによる加熱した大報道は、皆様の多くの記憶にあるとおり
だろう。

 私は、裁判官が自己保身を何よりも優先させてしまう一審判決では死刑判決
は出ないだろう、と予感していた(一審では実際そうなった)。望むべくは、
世論の喚起と、さすがにこの残虐きわまりない殺人事件で極刑を言い渡さなけ
れば司法の信頼は得られないと高裁や最高裁が判断してくれるかどうか、に一
縷(いちる)の望みを託して「少年にも死刑を」というタイトルを付したの
だった。

 あれから、およそ11年半が経って、福田被告の死刑判決がようやく確定した。

 もちろん私は、死刑確定のニュースに接して、喜んでなどいない。この思い
は、自衛隊が「いざ」というときに多大なる活躍をしてくれることを望みつつ、
世界でも実に稀有(けう)なことだが、自衛隊(国軍)は未だ誰一人殺してい
ない戦後史に対する安堵とも深いところで通底している――。


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となっています。「ガッキィファイター」サイト事務局は約100冊の新品(第
2~8刷)を在庫として購買して保管しています。お読みになりたい方は、期間
限定で半額にいたしますので、下記よりお申込みください。『偽善系2』も在
庫がなくなるまで半額といたします。これも品切れ時は電子書籍でお読みくだ
さい。なお、文庫はすでに品切れになったようですので、ご注文にならないで
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