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リハビリの科学――新時代の幕開け

 これまで医療とリハビリテーション(リハビリ)は別の分野にあった。最も早くリハビリが医療分野の一環として産声をあげたのは、旧西欧諸国である。続いてアメリカ、そして日本が加わる。日本も捨てたものではないというべきか、欧米に大きく後れを取ったというべきか。どっちでもよい。過去のことなのだから。

 全国で医療とリハビリが結びついた施設が徐々に増えていることは、ご存じのとおりである。世界にも日本にも、様々なノウハウを蓄積してきたのであってみれば先に創設したほうが常に有利ではなくなる。後発のリハビリ病院が、たとえば他の先行する病院の良いとこ取りをし、なおかつ実践し続け、また、改善を日々怠らなければ、先発を凌駕することも可能なのである。いい意味で、リハビリ病院も切磋琢磨をして欲しい。まるで本物の社説みたいになっている。

 私はいま、作業療法というリハビリを終えて、休憩時間を利用してこの原稿を書いている。ちなみに今日の午後は12時25分から20分間食事を通じたリハビリ、1時25分から2時10分までは一人ではいまだできない入浴を通じたリハビリ、休みを挟まず2時10分から2時50分まで言語療法、2時55分と4時40分からそれぞれ約1時間の理学療法があるだけでなく、医療スタッフがついてくれる自主トレも選択でき、4時から4時40分の間に入る。忙しい、というのとは違う。努力をしているという感覚でも、ないような気がする。さりとて、ただ流れに乗っているわけでは全くない。

 複雑骨折の経験者や、脳卒中の本人、あるいは家族やら、この分野で横綱である脳梗塞を筆頭に、リハビリは人間の体験的叡智として、身体だけでなく、脳機能破壊の面でも確実に時々刻々成果を上げているのは疑いないことだ。

 作業療法、理学療法、言語療法などは当病院ではすべて1対1で行われる。たとえば、本日午前8時50分から9時50分まで行った作業療法では、毎回毎回、なにかを成し遂げている。講師が与え、フォローしてくれる作業の課題も昨日より難しかったけれども、昨日できなかった小さなことが、本日のリハビリではじめて実践できたばかりである。しかも用意されたプログラムよりもかなり高度なことをしてしまった。

 わかりにくいかもしれないので、簡単に説明してみたい。麻痺した右手の親指と人差し指と中指を使って、体から60cmほど離れた2.5cm四方の木製でサイコロ様の立方体を1個ずつ合計20個(5×4)――5個ずつで20秒ほど休憩することが実はキーポイントの一つになる――を動かす。私にとって60cmはあまりにも遠いので、いくつかの質問をした。「両肩を揃えたままのほうがいいわけですよね?」。「そうですね」とのお答え。

 ついで、私はこう訊いた。「左側に力が入ってしまうのは、ありですか?」。師いわく「仕方のないことですが、左腕に強い筋肉運動をさせるのは長い目で見て良くありません。せっかく出た質問ですから、左肩に力が入らないように工夫してみましょうか」。直後に、紙コップを私の左手に持たせた。続いて、師いわく「この紙コップを潰さなければ左に力が入りすぎていることは防御できます」。にゃるほど。

 両肩をそのままの位置にしながら、左腕に力も入らず、60cm前方の大きめのダイスを取りに行くことに私は20回とも成功した。けれども、脳梗塞患者の多くが避けられない問題として、同時に二つ以上の指令に対応できなくなることがある。二つや三つ、または四つがそれぞれの人にとって限界値となるのだ。私の場合、3週間前までは一つの動作につき、「前へ」と「手のひらをできるだけ広げて」という二つのことが同時にはできなかった。

 作業療法で現在同時に与えられているミッションは4つだ。何かの誤解が生じて私は5つ目のミッションを遊びで自らやってみたのである。
 師のもくろみでは20個のうち11個が成功できたら大喝采のところであった。私が20個とも成功させたことは大したことではない。手のひらを開くこと自体がわれわれ脳梗塞患者にとっては極めて難しいだけに私は小さな挑戦をした。2.5cm四方のサイコロ様のものを60cm先で捕まえるためには、三本指のそれなりのパワーが必要であり、さらに空間上で腕を浮かせるだけでなく、ひじを伸ばさなければ届くことすらできない。その一連の動作が今日もまた新たな一歩として小さな蓄積となった。さらに私は手元付近でなんとか手放せばいいところを私はすべてを縦に積み上げたのだ。
 私にとっても初めてのスキルであった(昨年11月25日以降限定)。師は、27歳である。5年の作業療法士としての体験を積んできた。目を丸くしてサイコロの塔を眺め、びっくりしてくれた。

 あくまで、リハビリの一コマ(1時間)である。毎日毎日感動できるリハビリとは、たとえばこのようなことが起きることを意味している。

(後略・・・・・・ 続きをお読みになりたい方はメールマガジンをお申し込みください)

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