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第7回 「明日の記憶」

 アルツハイマーは、高齢者だけの病気ではありません。30代や40代でも発症
します。


 重い病気をテーマにした映画を観たり本を読んだり話を聞いたりすると、年
齢にまったく関係なく、自分もその初期症状に思い当たるところがある、と
思ってしまう人が1割前後は出てしまいます。この映画も、例外ではないで
しょう。けれども、自分もアルツハイマーになるかもしれないと考えたら泣け
てしまった、というのではなく、この夫婦(渡辺謙と樋口可南子。とりわけ妻)
の在り方に共感と安堵を覚えるゆえの涙だったらいいなあ、と陰ながら願って
います。
 差し挟まれる日本の風景と音楽も、実に美しいですよ。


 日ごとに症状が進むなかで、娘の結婚式までは会社員でありたいと願う(夫
役の)渡辺謙が、披露宴の最後のスピーチを間違えないよう巻紙を何度も読み
返してきたのに、本番では紙をトイレに忘れてきてしまいます。
 紙なしでのスピーチの成り行きもさることながら、妻が夫の手をにぎる場面
などなどが、純情な私としてはたまりませんでした。


 渡辺謙(が演じた夫)がアルツハイマーを発症するのは49歳です。働き盛り
ですよね。
 でも、と私は思うのです。難病の多くやアルツハイマーのような病気は、40
代で発症したら絶対的に不幸、ということではないのではないか。
 人は老い、人は死にます。68歳で死ぬ人より、55歳で死ぬ人のほうが不幸だ
とは思えません。少なくとも「何事も波風が立たずにありふれた人生」を過ご
すより、充実した人生を過ごしたいと思います。充実した、というのはつまり
波乱万丈の、という意味です。別言すれば、壁が何度も立ちはだかり、それら
を何度も乗り越えてゆく、ということです。


 この夫婦にとって、夫のアルツハイマーの発症は、圧倒的な壁でした。それ
を正面から乗り越えようとする映画です。
 それなりの壁を見てきた30代なら感動すると思います。20代では、まだ無理
かもしれません。

                 「ガッキィファイター」2006年12月21日号に掲載

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