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石神賢介『婚活したらすごかった』(新潮新書)

 

 すごいのは婚活より、この本そのものではないでしょうか。


《「ミキちゃん【引用者註:女性が自分のことをそう呼んでいる】さあ、今日、
してもいいよ」
 その言葉を聞いたとき、彼女が何をいっているのか、すぐには理解できな
かった。
「だからさあ、ミキちゃんは、ホテルに行って、エッチしてもいいよって、
いってるわけ」
 タクシーの後部座席。
〔中略〕レストランで、さっきまで文学や映画の話をしていたばかりだ。ミキ
さんは本をよく読んでいたし、映画や音楽などカルチャー系にも詳しかった。
〔中略〕その女がセックスをしようといいだしたのだ。私は知性を感じさせる
女性に弱い。おそらく多くの男は女性の知性に弱いのではないだろうか。
〔中略〕
「ホントに、エッチ、いいの?」
「うん。いいよ。まさか今日、ミキちゃんとできると思ってなかったでしょ?」
「うん......」
 不覚にも、下半身が熱を帯びてきた。
「したいでしょ?」
「うん」
 答えたとき、間違いなく、だらしない表情になっていたと思う。》


 本書の帯には《「とりあえずホテルに」と彼女は言った。》と大きく書かれ
ている。
 私のなかでは「とりホテ」という言葉になって、印象に刻まれた。


《同じ婚活サイトでも、女性のプロフィールは華やかだ。個人差はあるものの、
オシャレをしているし、化粧もほどこしている。しかし、男の服装はダーク系
が多く、ひげを生やしている会員もいる。テレビの刑事ドラマの犯罪者のファ
イルを見ているようだ。》


 フェイスブックでも共通したものを感じますねえ。


 これを書いているのはモノカキであり、私と同世代である。
 著者がミキさんと出会ったのは、婚活サイトだった。
《プロフィールを拝見して、お話ししてみたいな、と思いました。文章を書く
男性にとても興味があります。よかったら、お返事ください》の一文に引っか
かった。


 私もSNSを通じて、いきなり迫られたことがある。
 ここだけの話。
 いきなり「私はしばらくしていないので、身元のはっきりした男根が欲しい
のです」と。
 初め、よく意味が飲み込めなかった。男根は分かるよ(笑)。身元がはっき
りした、というのは、私は匿名でもなく、本もけっこう書いているから、そう
いう意味で「身元がはっきりしていない男性」は避けたい、という意味らし
かった。
 あのね。
 男が誰とでもやりたいと思っていると思ったら、大間違いだ。


 著者が婚活パーティーに電話で申し込んだときのこと。


《このようなプロセスを経て申し込み、参加が決まると、にわかに恥ずかしさ
が湧き上がってきた。
「オレはなぜこんなに恥ずかしいのだ?」
 自分に問いかける。
 答えは明白だった。
 こういうシステムに頼らなくてはパートナーを見つけられないという状況に、
プライドを削られるのだ。自意識がかるく壊される。》


 ううむ。そうなのか。
 いい歳をして、婚活パーティーに出ること自体、俺も恥ずかしいと思うし
(理由は違う)、そもそもそんなに恥ずかしいことを本にするのは恥ずかしく
ないのか(笑)。


 とにかく、おもろい。


 真面目な分析も、もちろんある。


《なにしろ、年収四百万円以上の男性は五人に一人以下なのである。シングル
の男性に限って言えば、さらに少なくなる。女性にとって、自分が求める高い
経済力を持つ男性を捕まえるのは至難の業だ。それが明確になり、周囲の目を
気にせずに婚活ができる世の中になった。》


 最近、ホテルで友人とお茶をしていると、60代の女性と70代の男性がコアと
思われる婚活パーティー二次会を、よく見かけるようになった。
 男性はダンディな人が多い。
 女性は、やまとなでしこを装っている。


 事務局の人に、こっそり聞いてみた。
 名前を名乗ったのだが、いきなり年収を訊かれてしまった。参加したいわけ
じゃあないし、そこまで年齢いってない。でもまあ、いずれ誰もが歳をとる。
年収を答えたら、絶句された。
 すぐに申し込めと言う。


 そうじゃなくて。



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