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両極端の愚  最後の社会主義国キューバで見たもの(11)


 キューバの有機農業への転換は、好んでそうしたのではなく、そうせざるを
えなかった、というのが真相です。91年にソ連が崩壊し、それまで親同然のソ
連から「配給」してもらっていた石油や肥料や農薬がほとんどゼロになり、人
力と家畜力だけで、農薬と化学肥料を使わず、ミミズを使って土壌改良をする
ようになった。
 日本で言えば、江戸時代の農業に戻ったわけです。


 両方とも(「食べる」のが不安になるほど過剰に農薬や化学肥料を投じるの
も、まったく使わないのも)極端であり間違っているというのが私の意見です。
 キューバの食生活や有機農業が日本の理想であるわけがありません。行って
みれば、すぐにわかります。最低限の配給さえ滞っているのです。北朝鮮の現
状とほとんど変わりません。違うのは、一年中熱帯の気候のもとにあるという
ことです。冬の寒さをともなう日本や北朝鮮には、この食糧事情は耐えられな
いでしょう。


 しかしながら、日本を始め先進諸国でも、石油がいつまでも思うように入っ
てくるわけではありません。現に石油不足から、ガソリン代や灯油代だけでな
く、穀物や卵の値上げも相次いでいます(この程度の値上げでビクビクするこ
とはないのですが、ややこしくなるので当面その話は措いておきましょう)。
 不必要に大量の農薬と化学肥料をばらまいて土壌と食の安全を破壊するのも、
いい加減にすべきです。


 他方で、キューバの医療制度は、崩壊の危機に直面しながら、金持ちの外国
人相手に外貨を稼ぎつつ(ヘルス・ツーリズム)、国内的には予防医療に専心
しました。専心せざるをえなかった、というのが現実です。


 マイケル・ムーア監督は映画「SiCKO シッコ」のなかで、アメリカの医療保
険制度を否定するあまり、問題大ありのイギリスやカナダやキューバなどの現
状を絶賛してしまう愚をおかしました。
他国に理想を求めるのは左翼のいつもの悪い癖です(過去に理想を求めるの
は右翼の悪い癖です)。


 アメリカによる経済封鎖、ソ連および東欧の瓦解、カストロ兄弟の無為無策
によって、キューバの病院から「本来病院にあるべきもの」が消え、それでも
人的パワーはまだ失われていないので、全国各地の住宅地に診療所を配置する
ことには成功しました。
 その代償としては、医師たちから転職やアルバイトの自由と転居の自由と勤
務時間選択の自由と権利を奪ったこと、患者たちから近代医学の恩恵にあずか
る自由と権利を奪ったこと、救急医療や保険制度を無視したこと、でしょうか。


 苦肉の策からとは言え、病院で治療がまともに受けられない(けれども医療
スタッフはたくさんいる)ゆえに、地域での(薬や手術に頼らない)予防医療
が発展した。


 キューバの医療を大絶賛してしまったのはムーア監督だけではありません。
 キューバの医療制度を理想と妄信して『世界がキューバ医療を手本にするわ
け』(築地書館)を書いた日本人公務員と、キューバの有機農業こそ日本のモ
デルだと喧伝(けんでん)して『有機農業が国を変えた』(コモンズ)を書い
たのは、同一人物です。

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