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命を賭けずに改善できる道へ  最後の社会主義国キューバで見たもの(13)

 
 (第12話)で、《「良い点もあるのだから悪い点は我慢しよう!」と
考えている人々が改革派》と書いたところは、本来なら《「良い点もあるのだ
から悪い点は改善しよう!」と考えている人々が改革派》とすべきだったかも
しれません。やや自虐的に書いてしまいました。
 ただ、敢えて《我慢》と書くことで、読む人に「えっ?」と立ち止まって考
えていただきたかった。


 これは哲学史上でも現実の社会観でも、実は最も肝要なテーマです。
 要するに、「体制を維持したまま改善を重ねてゆく」のか、「体制を転覆し
ない限り諸悪は退治できない」のか、という選択肢ですね。設問には答えが含
まれているのが常であり、もちろんこれも例外ではありません。


「現体制のせいにせず身近な問題から改善していく」のか、それとも「見果て
ぬ革命が起きるまで諸悪を我慢する」のかというふうに設問すれば、誰だって
前者を選びたくなると思います。


 現体制を「既得権益の総和」と捉えるならば、トランプゲームの「大貧民」
(地域によっては「大富豪」)のように、「革命は非既得権者にとっては至福
の瞬間だとしても、それはただ既得権の在り処(か)をズラしただけだ、とい
うことにすぐ気づかざるをえないでしょう。


 したがって最重要キーワードは「我慢」です。実のところ、我慢の限界を超
えそうな場合にどうするか、という問題は我々の周囲にありふれています。


 郵政や道路や年金その他について「改革」を繰り返しても、結局は何も変わ
らないじゃないかと感じて、一気に政権交代へというのはとてもわかりやすい
発想ではありますが、民主党に政権交代したところで郵政や道路行政や年金や
天下りその他が改善するわけがない。政権交代しても3カ月くらいで熱が冷め
て気づいたらむしろ悪くなっていたというよりは、現政権が危機感をもって本
気で改革したほうがマシではないか。


 結婚についてさえ、その継続に一番必要なものは「我慢」だと考える人たち
だって少なくありません。一般的に、結婚当初ほどには幸せではなくなってい
くとして、その結婚をチャラにする(机をひっくり返す)か、結婚を維持した
まま改革を重ねてゆくのか。


 雨降って地固まる、という諺(ことわざ)があります。不運や大喧嘩や別れ
話など不測の事態があって、むしろ前より基礎が固まることの譬(たと)えで
す。
 時と場合によっては、異議申し立てが必要不可欠でしょう。そこをまともに
改善しないならば我々は革命を起こす(離婚する)よ、という構えを見せつつ、
相手に改善を迫るわけですね。


 キューバに住む人々は、その異議申し立てをまったくしてこなかった、と私
の目には映ります。国外への脱出を試みるのでなければ、ひたすら我慢を重ね
るしかなかったのでしょうか。自国の独裁者ではなく、アメリカや、腐敗した
資本主義諸国のせいにして――。
 従順に我慢し続ける、というのは、体制を裏から支えるのと同じことなので
はないか?


 キューバ革命は1959年に成し遂げられ、当初は貧民に富豪の家や土地が割り
当てられました。しかし、そのまま経済成長まで止めてしまったので、北朝鮮
と同様『今も革命(戦争)が続いている」というスローガンを降ろすことがで
きないでいます。革命のときに成人していた人々は、多大な恩恵を得ましたか
ら「革命政権」を現在でも支持できますが、革命を知らない世代はそうではあ
りません。


 私が最初にこの国を訪れたとき18歳だった女性と約30年ぶりに偶然再会して、
イラつかされたのは彼女が現政権を全面的に肯定していたからではありません
(肯定はしていましたが、そのこと自体が問題なのではありません)。彼女は
異議申し立てを、まったくしてこなかったと思えたからです。


 では、私にそれが「できたのか」と自問してみれば、僭越ながら「できた」
と思います。
 しかし、私のような者はあの国で若いうちに処刑されていたのではないか。

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