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小松秀樹『医療の限界』新潮新書(採録)

 マイケル・ムーア監督の「SiCKO」が日本でも話題になっています。アメリ
カの医療制度はビョーキ(シッコ)だと告発しつつ、能天気にもイギリス、カ
ナダ、フランス、キューバの医療に百点満点をつけてしまうという、かなり軽
薄な映画です。


 ムーアの思い込みが正しいとすれば、数千人のイギリス人医師がアメリカや
カナダに移住し、その逆はないという事実の説明がつきません。人頭税制のイ
ギリスでは、各病院での医療費の総額が決められてきたため、医療現場ではひ
どい手抜きが横行してきました。


(ムーアの夢ではなく)現実のキューバは、ドル獲得のために外国の金持ち向
け医療ツアーを企画しながら、自国民が通う病院ではガーゼや痛み止めさえ不
足しています。ムーア監督が「キューバに対するアメリカの経済封鎖」に抗議
するならわかりますけれども、キューバには最新の医療機器があふれ、貧乏な
外国人をタダで治療し、薬も安く……とウソばかり喧伝されたのでは、めまい
がします。


 この映画に限らず、およそ医療制度について考えるうえでは、リテラシー
(判断の枠組み)が不可欠です。本書『医療の限界』は、賢明なリテラシーを
得る最良の書だと思います。


 インターネットの普及のおかげで、薬の成分などについては誰でも詳しく知
ることができるようになりました。私が言っているのは、もちろんそういう類
のことではありません。もっと根本的な判断の枠組みについてです。


《人間はいつか必ず死ぬということ、医療が不確実であるということは、本来
社会の共通認識であるべきだと思います。しかし現実には、ほとんどのメディ
アが不確実性を受け入れようとせず、一方的に患者と医師の対立を煽ってきた
ところがあります。》


 百%安全な医療など、他の分野と同様、ありえません。病院は、もともと危
険な場所です。病を治す、という行為を、生体にまったくダメージを与えずに
行なうことなど不可能だからです。


 大昔のように「お医者様を全面的に信頼しろ」と言っているのではありませ
ん。診断や治療にリスク(不確実性)はつきものであり、一方的に患者側と医
師の対立を煽るのは無意味どころか有害だ、という大切な共通認識をもちあい
たい。


 しばらく前、外で遊んでいる最中に箸が喉に刺さって死亡した四歳児の、救
急外来を担当した耳鼻科医が起訴されたときも、「箸を口に入れたまま走らせ
るな」という声は、私などヤクザな物書きは公然と言いはしたものの、上品な
マスメディアにはまったく出ませんでした。そもそも、親が割れた箸を持参す
れば、事態はそれほど悪化しなかったはずです。


 六本木ヒルズ森タワーで、六歳児が自動回転扉に挟まれ死亡してしまったの
も、もちろん構造上重大な問題はありましたが、見るからに巨大で重そうな自
動ドアに就学前の子を一人先に頭から突っ込ませるような真似をさせず、親は
きちんと子の手を引こう、と私は書きました。


 いや、私の発言などこの際どうでもいい。問題は、なぜ報道では患者側と医
師側との対立が煽られてしまうのか、です。巨大メディアの記者たちは凶悪犯
罪と同様に受け止めてしまうのではないか。

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