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リチャード・ウィッテル『無人暗殺機ドローンの誕』

リチャード・ウィッテル『無人暗殺機ドローンの誕』

 本書は、読まないと損です。

 4年前「アラブの春」と喧伝(けんでん)され、私もこのメルマガで現地か
らの報告を何度かいたしましたが、当初の報告通り多くのマスコミの楽天的な
「独裁政治崩壊」という結論付けと異なり3国はそれぞれ体制も違い、とりわ
けチュニジア・エジプトでは公安警察が「革命」前後に全く影響力を変えてい
ない現状を現地で見てきた私の眼には、単に独裁者が国外逃亡し、民主化が訪
れるという楽天的な行方は「現場に来てから言え」という思いを禁じえません
でした。
「リビアや北アラブではカオスが増す。」また「その三国に限らず東アフリカ、
北アフリカでは中小規模のテロが激増する。」とメルマガに書いた懸念は、残
念ながらこれらも現実のものとなっています。対岸のスペインなどでもテロが
絶えないばかりか、フランスにまで波及しています。

 
「アラブの春」の三国の状況はそれぞれ異なると申し上げましが、SNS(ツイ
ッター、フェイスブック)以上にアルジャジーラ放送を通じて人々がかつてな
い大規模な集会や意思疎通を図れることになったのは共通していたものの、公
安や軍隊や独裁者の在り方、オイル資源の豊かさ、観光資源、経済力が全て異
なっており、リビアのように多くの国から出稼ぎ労働者を受け入れている、と
いった違いがあるのにすべての国が同じように欧米流の民主主義が定着するよ
うなことはありえないと私が推測したように「アラブの春」後の展開が違って
くるのも当然のことであり、三国とも同じ方向に進むと楽観視していた方がむ
しろ何も考えていない主張であっただけのことです。

 米英仏が空爆を行ったのは三カ国のうちリビアに限られます。

 リビアにはアフリカで最良質のオイルが埋蔵されており、英仏にとっては
「アフリカ諸国のヒーロー」であったカダフィーが脅威そのものであり、暗殺
は当初からの明白な目標でした。実際フィクションとしてリビア人がカダフィ
ー大佐を殺したことになっていますが、英米仏は最初からカダフィーを暗殺す
ることを計画していたことは議会でもすでに明らかになっています。この対リ
ビア戦及びカダフィー暗殺に関して、アメリカは積極的ではありませんでした。
それゆえに自国兵士の犠牲を最低限に留めたいという思惑もあり、米軍は全機
ともドローン(無人戦闘機)を使用しました。

 本書はリビア戦争について書いたものではなく、アラブ諸国との激烈な第4
次中東戦争で多くの戦闘員を失ったイスラエルの悲願として無人爆撃機を開発
し始めたところから書き起こされ、近い将来に向けた無人暗殺機までの歴史が、
わかりやすく記されている唯一無二の本です。

 ジャンボジェット機も今やほぼ完全に自動操縦になっており、ヘリコプター
に関してもおもちゃレベルでこの10年でとんでもない進歩があったので、数百
億円レベルの無人爆撃機から数千円レベルのおもちゃまで、とてつもなく大き
な変化があったことと、プロペラ機以外のボーイングやエアバスは実質的にコ
ンピュータ自動操縦、つまり機長や副機長がいなくても離発着と飛行ができて
しまう段階にきて久しいものがあります。
 ことさらに「機長が的確な判断をしたために衝突が避けられた」といことが
強調されることがありますが、これは明らかに管制塔のミス判断が両機に伝え
られたことが原因で、管制官が何も言わなければむしろ事故にならなかったと
いう証明なのです。
 実際に、プライベートジェットは金持ちの乗り物ではなくなってきており、
アフリカの島々でのバカンスは成立しない。日本でも離島にヘリコプターや小
型飛行機がなければ緊急医療は成立しないし、上空からの撮影も成立しえない。
こういうものは人間が車を運転するように、優秀な機長が必要であると同時に、
他方で車もヘリコプターも自動運転化に向けて大きく足を踏み出しているのが
現実だ。

 本書はドローンを「無人暗殺機」としているが、原書タイトルはそのような
ニュアンスはありません。ドローンの歴史を描いた本で、殺人暗殺機というの
はセンセーショナルなタイトルだとは思うものの、書かれている内容は、まず
乗組員の犠牲を最低限にして効果を最大限に挙げる、その行きつく先は無人暗
殺機にならざるを無いので、この日本語タイトルはドローンの本質をついたも
ので、ドローンの開発史としてはおそらく本書がはじめてだと思います。
 これは、インターネットやGPSが純粋に軍用技術として開発された経過と非
常に似ています。

 本書でドローンの開発史が全て、紛争ごとに発展を遂げたことに非常に驚愕
すべきことが多くありました。幸か不幸か命がけでリビアに入りながらも、実
際に使われたドローンを見ることはありませんでした。それだけに今後の戦争
はますます小規模化するとともに、先進国、とりわけ英米仏が関わるような戦
争はとりわけ大規模化されることなく、リビア戦争でカダフィー軍だけをター
ゲットにするうえでは、ヒューマンエラーは起こりえない、というところまで
来ていることがよく分かる本です。

「ドローン」と「アラン・ドロン」は関係ありません。
 ドローンについて現時点ではごく当たり前に知っている人たちと、「何やそ
れ」という人たちに大きく分かれていると思います。100%と0%という訳でな
いにせよ、インターネットやGPSについて知らない人は知らないかもしれませ
んが、10年後にドローンを知らない人は、今インターネットやGPSを知らない
人と同じになることは間違いないでしょう。

 私は「ドローンがリビア戦争で使われているにも関わらず見ることができま
せんでした」と言いましたが、今、シリアに三方から近づいた時も当然ドロー
ンを持参していました。ドローンというのはもはや従来の戦闘機とは全く似て
非なるものです。GPSはかつて億単位のお金が必要でした。今やGPSはあらゆる
スマホに掲載されています。これほどの変化がたった20年でおきてしまうので
す。
 これと同じようなことがすでにドローンに関しても起きています。例えば軍
事的には爆撃のほかに偵察、実際に福島第一原発事故の時に米軍はドローンを
使っていますし、私の知り合いでも、まだ多くはないにせよドローンを取材先
に持っていく人は増えています。このようにドローンについて全く知らなかっ
たという人と、「ドローンなしでどうやって取材するの」と言う人に分かれて
いる人がいるのは過渡的現象だと私は思います。

 SDカード付であれば映像も長い間録画できますから、しかもアマゾンで検索
していただければ分かるように、手荷物に入る小さなドローンが1万円~20万
円ほどで買えます。
 シリア取材時に撃ち落とされたとしても個人として大した損害にはなりませ
ん。無政府状態であることを考えるとむしろ安いものです。

 私などにとっては、ソマリアに入るのに国連軍に巨額なお金を払って兵士や
車を手配して「助かる確率20%」というような経験をしたものからすると、ド
ローンのほうがむしろ安全で確実。ドローンは操縦が簡単で、私が子ども時代
に遊んでいたヘリコプターはかなりの確率で墜落していました。また、大きな
事故でマスコミがヘリコプターを飛ばした時にヘリが密集するのはかなり危険
ですが、今や数万円程度のドローンで上空からの撮影ができてしまうのです。


 これがインターネットやGPS、弾道弾ミサイルが全て民需に転じていったよ
うに、ドローンも今や取材や映画撮影に不可欠になっているだけでなく、サバ
ンナではアドバルーンサファリというのがあって、数百ドル程度でアドバルー
ンに乗って上空から動物たちを見るのが人気でしたが、これもドローンに変わ
っていくでしょう。かつてプロカメラマンしかサバンナの写真が撮れなかった
ものが、今や多くの素人がデジカメで撮影しているのと同様の変化が今やドロ
ーンで起きています。

 世界各国の企業や教育委員会がドローンに目を付けています。私自身はやや
懐疑的ですが、ドローンで宅配をする研究が猛烈に進んでおり(おれは無理だ
と思う、だれが呼び鈴を押すんだ? だれが手渡すんだ? 新聞配達くらいは
できるようになるだろうけれども)、災害時の食料や水の調達等にとっては驚
異的な活躍をするはずだ。

 登下校で事件が起こると心配して付き添う親がいるが、ドローン一台でその
代わりができる。という理由で各国の教育関係者が注目している。試みに、ク
リスマスプレゼントに子どもにあげるようなヘリコプターを買ってみたら、ど
れだけドローン技術が格安で故障もせず簡単に飛ぶか、ということに驚くので
はないだろうか。

 でも、調子に乗ってSDカードを付けて国内の近所で飛ばしたら「覗き」と間
違えらかねません。覗きは軽犯罪法違反です。日本で安易にドローンを飛ばす
のはくれぐれも気を付けてください。

 今、個人でドローンを使いこなしている人たちと、「軍用機」だと思ってい
る人、あるいは関心のない人、全ての人たちに本書を勧めたいところですが、
やはり本書は戦争を通してどうドローンが開発されていったかが中心なので、
そこに興味がある人には必読ですが、個人的には無人偵察機としてのドローン
は「CRISIS――完全犯罪のシナリオ」を、また、まさに本書の邦題タイトルと
なっている無人暗殺機としてはトム・クルーズ主演の「オブリビオン」が必見
です。

 未来はすごい、という話ではもはやありません。私には必需品です。スポー
ツのオペレーションを空撮して自分たちで客観視するにも便利。あなたも使っ
てみてください。サバンナで使うのが一番気持ちいいかも。

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