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新連載 脳梗塞日誌(5) 模範囚?

 模範的な入院患者を、めざしている。

 そうであるほうが、無期やらのスパンではない場合、例えば4カ月の短期ミッションをめざせるなら、毎日毎日真剣に、また充実して過ごすことができる。

 第二に、私は患者としてや生徒として、小・中・高・大を除けば、もともとかなり礼儀正しい。セブ島で延べ8カ月のスパルタ語学学校に50代前半で通い続け、年収も増やし続けたのも、その一例だろう。

 自分で学校や入院先を究極的には選べているのだから、無駄な衝突や揉め事にかかる時間が惜しい。脳梗塞をメイン(8割)とするリハビリ病院にあっては、とことんリハビリに専念したいと思っている。

 十数人の優秀な専属病院スタッフのなかで、1人だけそうではない者が紛れ込んでいたので、クビにしたことはあるが、私は文字どおり命をかけている。

 ついでながら、心理学でも証明されていることだが、基本は紳士であり、かつ本気で怒ったら本当は怖い――と思われる者こそがもっともリスペクトされる可能性が高い。

 ここで辞書を、のぞいてみる。

 囚人――
《牢獄につながれている人。とらわれ人。》(「大辞林」)

 模範――
《みんなの――となる。――的な人物(演技)。――答案。見習うべき手本。》(「類語辞典」)

 模範生――
《品行方正・成績優秀で、他の生徒の模範となる生徒。》(「大辞林」)

 おおよそのところは、辞書で紹介できたと思う。不思議なことに、模範囚という言葉は、少なくとも私が持っている辞書には登場しない。

 私に関して言えば、優秀で熱意ある、つまり模範生のような医療スタッフたちと、理学療法、作業療法、言語療法、他のわれわれの生活――入浴やら食事など――を安心して自力でできるまで支援するスタッフたちがそろっていれば充分すぎると思う。

 奇跡と呼ぼうが、たまたまと呼ぼうが昨年12月19日以来、プロの物書きに戻れたことが、11月25日に発症した脳梗塞闘病史の中で計り知れぬほど価値が大きい。これがなければ、生きていなかった。

 毎朝、起きるとナースコールを押して小便を済ませ、相手に時間のゆとりがあれば会話も楽しむ。

 同じフロアのナースやドクター、ケアマネージャーや各方面(理学療法など)の各担当及び各サブ担当4人ほどについてなら、恋愛経験や、どんなことに困ったか、ファッションのセンスや趣向なども、知っている。秘密も一つ程度は握っているのは当たり前のことだ。

 小便のあとは一人で、原稿を書く。今もベッドから自力で出られないのは昨年11月25日のグアム以来、かわらない。

 朝食の迎えのスタッフが私の部屋に入ると、丁寧なあいさつをし雑談をしながら今はなんとか自力で下のパンツから靴下やズボンやポロシャツなどにパジャマから着替え、付き添いがそっと後ろからついてくれる中で、車椅子を運転して移動する。レストランには4つのテーブルがあるのだが(各階ごとに2グループに分かれており、もちろんこの4つのテーブルが全入院患者では全然ない。誤解なきよう)、それらに座る人々全員に挨拶をするのは私だけだ。

 私を含めて、脳が多かれ少なかれ破壊されているため、入院患者の8割方は何を話しているかよくわからない。私もだ。が、12月8日ぐらいから今に至るまで新聞の音読や特定の数名と長電話をすることで私はそれなりに話せるところまで来ていると思われる。それでも発音はかつてのものとは全く異なり、「お・は・よ・う」という挨拶を私は大勢に向かって丁寧にする。

 それだけではない。

 軍隊式の敬礼を、私は付け加える。左の手のひらで、何もしないか、中学生女子みたいに手を振ってみせるか、天皇陛下のように手を上げて見せるかしかないだろう。最後のは不敬罪っぽい。

 そこで左手での敬礼を始めてみた。最初は一人が呼応してくれ、その二人が廊下ですれ違いざま敬礼をするのを見た病院のスタッフたちは例外なく「クスっ」と笑ってくれた。毎日1人程度の呼応者が増え、協賛者も出続けている。私の階の限定的なこの「敬礼!」は、なかなかの評判になっているらしい。

 なぜ、このような敬礼挨拶が始まったかといえば、私の使える手が左しかないからだ。

 3週間ほどで当初の4カ月のミッションがおおむね実現できたとはいえ、そもそも4カ月後の我が姿が、平均値として、こんなふうに描かれていたのか。完全に以前のような脳機能や故障した100もの部位が他の部位によって補ってもらえる可能性は、1%程度だろう。

 98%回復したのは、前にも述べたように、文章を書くことだけだ。それさえ返してもらえるのならば、他の麻痺や障害などどうでもいい――とすら明言した昨年12月18日。

 あれから40年――。
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